虫の音×半袖短パン×オリオン座
夜、空を見上げると見慣れた三つの星が直線に並んでいた。冬の星座の代名詞、オリオン座だ。
どこからか、涼しげな虫の音が聞こえてくる。日中は30度を超す暑さでも、日が落ちて夜になれば涼しくなる。
ギリシャ神話では、オリオンは狩りの名手だったそうだ。だが、それに驕ってしまった。見かねた女神が差し向けたさそりの毒により、オリオンは死んでしまう。だからいまでもオリオンはさそりが苦手だ。さそりが東の空から上がってくると、逃げるように西の空に沈んでいってしまう。
オリオン座は冬の夜、さそり座は夏の星座。この二つを同時に見ることはない由縁だ。
「ああ、そうか。ここは南半球だったか。だから、冬でもオリオン座が見えるのか。」
そう思ったのも束の間、違和感を覚えた。
「ん?いやいや、インドは南半球じゃなくて、北半球やろ。」
どういうことだ?
「あれ?いまは夏だっけ?いや、オリオン座が見えてるから、冬のはずだ。ん?あれ??」
頭が混乱する。
「ああ、そうか。」
しばらくして、理由がわかった。原因は季節感のずれ。日本でオリオン座を見る時は、冬だ。服を三枚も四枚も着て厚着をしている。春か秋の早朝や真夜中に見かけることもあるが、薄着ではない。しかし、今いるのは南インド。1月2月でも気温が30度や35度を超す常夏だ。半袖短パンにサンダルと夏の格好。虫の音は秋の雰囲気を醸し出す。見上げると、冬の星座オリオン。季節感がめちゃくちゃだ。でも、これがここの1月2月の光景なのだろう。寒い夜に凛とした澄んだ星空を彩るオリオン座が、1月2月の日本の光景。
自分の、日本の常識は、他人の、他国の非常識。自分の「当たり前」が、実は全世界共通ではない。そんな考えればわかるような事が、自分の肌で身をもって体験できる。それが「旅」だ。旅の醍醐味の一つ。だから、俺は旅が好きだ。